発酵をコントロールする、ハニー精製
果肉除去から生豆までの「精製」がコーヒーの味に多大な影響を与えていることは、別記事にも書きましたが、今回は最先端の精製方法である、「ハニー精製」についてまとめてみたいと思います。
コーヒーは発酵食品?
「モカ」に代表されるナチュラル系の独特の香り。全く同じ樹から収穫した果実であっても、その後の精製方法によっては同じ味にならないことはよく知られています。
この精製方法の違いによる、結果としての味の違いのメカニズムを、もっと追求しようとする過程で生まれてきたのが「ハニー精製」です。
精製というのは、「脱穀すること」という一面と、「微生物や菌にコーヒー豆を発酵させること」という2つの側面があります。コーヒー飲用の長い歴史では、前者の側面のみがクローズアップされてきたのですが、近年の科学の進歩により、微生物たちの分解作用が味への思わぬ副産物をもたらしていることがかなりわかってきました。
脱穀・精製過程でどうしてもついて回る、発酵・分解。コーヒー豆は発酵を抜きにしては成立しない食品であることから、コーヒーは発酵食品と考えられるようになってきましたし、発酵をコントロールしこれまで不可能とされていた味変をしてやろう、という試みが「ハニー精製」です。
どうしてハニー?
ハニーというと蜂蜜を連想することから、甘味が強い豆をハニーとよんでいると、誤解している人がいます。
ハニーは蜂蜜というのは正解なんですが、甘さのほうではなく、どろりとした触感のほう。果肉の内側にあるミューシレージというぬるぬるを、どれだけ除去し、どれだけ残して乾燥=発酵させるかを高精度にコントロールします。果肉除去後のぬるぬる具合がまるで蜂蜜でコーティングしたようだという例えから、「ハニー」とよぶようになりました。
ハニー先進国、コスタリカ
現在、ハニー精製は中米を中心にどんどん拡大しています。その中で中心的な存在になっているのがコスタリカです。コスタリカでは、ミューシラージ残存率100%を「ブラックハニー」、50%を「レッドハニー」、25%を「イエローハニー」とよんでいます。
また、乾燥期間も決められており、ブラックハニーは約1ヶ月、レッドハニーは12~14日間、イエローハニーは6~8日間と細かな規定があります。ミューシラージ残存率と乾燥期間によって発酵具合をコントロールし、味付けをしているのです。
微生物を追加・添加する
ウォッシュドの水槽分解の工程で、発酵水槽中の微生物の構成を人為的にコントロールすることで味に変化を付けようとする試みも行われています。通常以上の乳酸菌や酵母などを添加し混ぜることで、特定の菌種が優勢になる状況を作ったり、嫌気性条件下で発酵させる実験も行われています。
まとめ
こうした取り組みはまだ発展途上ですが、今後のブームを作っていくことは間違いないと僕は思っています。これまで生豆のキャラクターを決定していた、土壌、気候、品種ですが、第4の変数である発酵を恣意的にコントロールするテクノロジーと工業技術が組み合わされれば、これまで考えられなかった味の出現も夢ではないと思います。2020年代のコーヒーの新たなフェーズには目が離せません。
BON COFFEE’s Master
静岡大学卒業後、2009年に地元福井駅前にて「BONCOFFEE」を、2015年に豆販売に主軸をおいた2号店「BONCOFFEE -BEANS STORE-」を開業。2020年、福井駅前再開発事業にともないビーンズ店を板垣に移転し現在に至る。モットーは「1杯のコーヒーのチカラで世界を少しまったりさせる」。作り続けたいコーヒーは、子供からお年寄りまで誰もが気軽に楽しめるコーヒー。コーヒーが飲めなかった人がBONCOFFEEのコーヒーなら飲めた、ブラックで飲めなかった人が飲めるようになったとの声多数。
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